PPA業務とは

DD/Valuation

私は現在FAS業界で働いていますが、FASの業務の一つにPPA業務というものがあります。

FASの仕事というと、主にDDやValuationをイメージする人が多いかと思いますが、PPAもサービスラインの一つとして提供しているFASも多いかと思います。

一方で、外からは具体的にどのような業務を行なっているか見えない、ブラックボックス化した業務とも言えます。

今回は、外からはあまり知られていないPPA業務の概要について私の経験をもとに、解説していこうと思います。

PPAとは

PPAとは、Purchase Price Allocationの略で、日本語では「取得原価の配分」と言われます。

そもそも、この取得原価の配分は、企業結合に関する会計基準(以下、企業結合会計基準)28項で求められています。

取得原価は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して企業結合日以後 1 年以内に配分する

企業結合会計基準28項

企業を買収する際には取得価格を決めますが、会計上はこの取得価格を、

  1. 買収した企業(被買収企業)の資産負債に配分し、
  2. 配分しきれなかった残存部分をのれんもしくは負ののれんとしてB/Sにオンバランスする

処理を行うこととなります。

この一連の作業のことを、「取得原価の配分」つまりPPAと呼びます(企業結合会計基準28-31項参照)。

この際、資産負債に配分するとは、単に資産負債を時価評価して、当該時価評価額に取得価格を配分する作業のみだけを指すのではなく、受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産をB/S上にオンバランスさせる必要があります(企業結合会計基準29項参照)。

上記のうち、資産負債の時価評価については、買収企業内の経理や他の専門家(例えば不動産鑑定士等)である程度評価可能かと思いますが、識別可能な無形資産の認識測定については、そもそもどのようなものを指すのか、その評価額はいくらなのかが一般的には分かりづらく、経理等の買収企業内のリソースで対応することが難しいと言えます。

そこで、FASや監査法人内のアドバイザリー部門で、この無形資産の識別、認識及び測定の業務(PPA業務)を行うこととなるのです。

PPAの必要性

無形資産をオンバランスする

では、そもそもなぜPPAは必要なのでしょうか。

もちろん、会計基準で求められているからと言われれば、その通りなのですが、これにはしっかりとした理論的背景があります。

企業がM&Aをする理由は、多岐にわたります。

例えば、同業同士のM&Aならば、他社が持っている技術や特許を獲得したいとか、異業種のM&Aならば、一から事業を作るよりその事業をやっている企業を獲得したほうが、スピーディーに事業が開始できる等々、企業の思惑はさまざまです。

つまり、買収企業は被買収企業が持っている強み(技術や権利等)を獲得するために、M&Aをすることが一般的です。

では、この強みは会計上、目に見える形で計上されているのでしょうか。

前述したように、この強みは将来の収益の源泉となるため、資産性があると考えることができ、このように考えるのであれば、財務諸表上でオンバランする必要があります。

取得価格を配分する意義

一方で、上記以外でB/S上でオンバランスされていないものの、独自の技術や人材(一流経営者等)等の強みは将来の収益の源泉となるものであり、買収企業はそのような強みを企業価値として織り込んで、買収価格(取得価格)を決めています。

よって、買収価格を配分する際には、受け入れた資産負債のみならず、このような強みとなる無形資産にも買収価格を配分し、最後に残った部分がのれん(狭義ののれん)とする必要があるのです。

このように聞くと、「その強みはのれんとして計上されるべきものだから、強み自体を取り出して評価する必要はないのではないか」と疑問を持つ人もいるかと思います。

しかし、この強みとのれんは別個に評価しなければ、会計理論と整合しなくなります。

日本基準では、のれんの償却期間は20年以内とされています。

ここで、のれんと被買収企業の強みをすべて「のれん」と捉えてしまうと、当該強みについても償却期間を20年以内とする必要があります。

これは、実態に即していると言えるのでしょうか。

つまり、最大20年も当該強みの価値は続くものなのでしょうか。

おそらくそれはNoであり、強みの内容によって、償却期間は異なるべきものです。

だからこそ、この強み(=無形資産)を個別に評価し、B/Sに計上した上で、残額をのれんとし、償却期間は各々の価値の存続期間で決定される必要があるのです。

今までは、のれんが償却資産となっている日本基準の話をしてきました。

一方で、IFRSや米国会計基準(USGAAP)ではのれんは非償却となっているため、上記理論はこれらの会計基準内では当てはまらないかと思われたかもしれません。

IFRSやUSGAAPでは、無形資産を償却性資産と非償却性資産に分ける必要があるため、日本基準と同様に無形資産とのれんを適切に分ける必要性が出てくるのです。
(そもそも、この無形資産の考え方は、海外から日本に輸入された考え方なので、国際的な考え方を理解したほうが分かりやすいかもしれません)

これが、無形資産とのれんを分けてオンバランスさせる必要がある、理論的背景となります。

ちなみに、のれんには、広義ののれんと狭義ののれんが存在し、広義ののれんは無形資産と狭義ののれんを合算したものなので、前述した疑問もあながち間違えとは言えません。
(広義の)のれん=無形資産+(狭義の)のれん

具体的な作業内容

実務では、PPA業務は以下のフローで進めていきます。

  1. 被買収企業のBSに計上されている資産負債を時価評価する
  2. 取得原価を1に配分し、残高を算定する(広義ののれん)
  3. 各無形資産を評価し、2の残高から除いてのれんを確定させる(狭義ののれん)

上記1-3の作業を企業結合日以後1年以内に実施する必要があります(企業結合会計基準28項)。

1年以内であればいつ計上しても良いので、実務では買収企業がどの決算期で狭義ののれんを計上するか決めて、そこから逆算してPPA業務を行うこととなります。

我々評価人は具体的に何をするかというと、主に2つの業務があります。

まず最初は、無形資産の識別、認識及び測定を行い、狭義ののれんと各無形資産の金額を算定します。

算定方法は対象となる無形資産によって異なりますが、ざっくりいうと各無形資産のValuationをしていると考えてもらえればイメージがつきやすいと思います。

前にも話したように、無形資産は将来の経済的便益の源泉であるため、無形資産から創出される将来CFを現在価値に割り引くことによって、金額を算定します。

これって、要はValuationをやっているのと大きく言って同じなのです。

もちろん、細かい部分はValuationと異なりますが、大まかなイメージはValuationと思っていただいて問題ないかと思います。

狭義のれんと無形資産の金額が算定されたら、次は買収企業の監査法人の対応業務が待っています。

PPAは会計基準で求められており、結果がBSにオンバランスされる、そして将来は償却費としてPLにも影響してくるので、当然重要な監査対象項目となります。

そのため、監査法人からPPA結果の妥当性について、ヒアリングやQAシートベースでかなり質問されます。

ここは、相手が会計専門家なので、かなり細かい質問が来ることも多く、かなり骨の折れる作業となります。

この監査法人とのやり取りが終わり、妥当性検証が終われば、業務は終了となります。

案件によってまちまちですが、大体2-3か月程度かかるイメージです。

参考文献

下記は私が現場で良く使用している文献です。

PPA業務を体系的に学びたいのであればおすすめです。

・M&A無形資産評価の実務 デロイトトーマツFAS株式会社著

・M&AにおけるPPAの実務 EY Japan

コメント

タイトルとURLをコピーしました