皆さんが、いきなり上司から、「X国の直近のGDP成長率とインフレ率を調べておいて」と言われたら、どうやってリサーチをしますか。
とりあえず、Google検索をかけてみると、それらしい数値が出てくるのですが、情報源がメディアの記事や個人ブログ等の二次情報で、どうしても情報の信頼性に不安が残ってしまいます。
そんな時に重宝するのが、
そんな時に重宝するのが、各国のミクロ指標を入手できるIMFが公表している「World Economic Outlook Database」というサイトです。
今回はこの「World Economic Outlook Database」の使い方を解説していこうと思います。
GDP成長率をリサーチする必要がある場面とは
まず、そもそもFASの業務において、GDP成長率をリサーチする場面はあるのでしょうか。
個人的には、そこまで多くないとは思いますが、私はValuationの作業で冒頭のような指示を上司から受けました。
DCF法でValuationをする際、継続価値(Terminal Value)の算出方法として、永久成長率法(PGR法)と倍率法(マルチプル法)があります。
このうちマルチプル法は、対象会社の類似会社のマルチプルを使えばすぐに算定できますが、PGR法の場合、継続期間の永久成長率をどう置くかによって継続価値の金額が大幅に変わってきます。
よくある置き方としては、保守的に永久成長率=0%として、計画期間最終年度の売上高を発射台とするケースです。
確かに、対象会社やその属する業界の永久成長率等を公表している信頼性のある外部データというものはほとんどないため、変に数値を設定するよりは保守的に0%と置くことには一定の合理性があるかと思います。
しかしながら、昨今急成長を遂げているIT業界やヘルスケア業界などは、いくら今後の成長率が不明だからと言っても、永久成長率=0%と単純に置くのは少し乱暴という考え方もあります。
また、企業価値をできるだけ高くしたいセルサイドのValuationにおいては、永久成長率を少しでも高く出したいというインセンティブもあります。
しかしこの時短絡的に、事業計画の成長率がX%だから永久成長率もX%とか、X%の半分のY%にするとかは設定数値への根拠に欠けているため、採用できません。
そもそも、永久成長率は対象会社が永久に成長するとしたらといった仮定の下、算出される割合です。
今現在急成長を遂げている業界であっても、技術革新や規制などの外的環境の変化により、いずれは低成長となってしまいます。
そのため、永久成長率というものは、現在私たちが想像している対象会社ないしは業界の成長率よりもずっと低成長率に収斂していくこととなります。
それでは、永久成長率のベンチマークとなるような指標は何になるのでしょうか。
それが、マクロ指標であるGDP成長率やインフレ率(GDPデフレーター)等となります。
つまり、対象会社はGDP成長率やインフレ率くらいでは成長するだろうとの仮定の下、これらの指標を永久成長率に設定するのです。
リサーチ方法
では、上記のGDP成長率やインフレ率はどのようにリサーチすればよいのでしょうか。
ここでよく使うのが、冒頭で紹介したIMFが公表している「World Economic Outlook Database」です。
このサイトには、各国のGDPやインフレ率はもちろん、多くの経済指標がしかも推移まで分かるようになっており、しかもExcel形式で抽出もできるようになっています。
英語のサイトなので、最初はとっつきにくいですが、慣れれば抽出などは簡単にできます。
では、次からは実際の使い方を見ていきましょうあ。
データを抽出する母集団を選ぶ
World Economic Outlook Databaseにアクセスすると、まず下記のようにどのような母集団でデータを抽出するか聞かれます。
今回は国ごとの指標を見たいので、「By Countries」を選択しましょう。
地域の選択
次に地域の選択となります。
地域と書いていますが、実際は先進国、新興国でさらにカテゴライズされており、Regionとは少し違った区分で分けられているので、自分が調べたい国に該当するカテゴリーを選択します。
日本の場合は、「MAJOR ADVANCED ECONOMICS(G7)」となります。
国の選択
ここでようやく国の選択となります。
下記のような画面に移動し、国を選択することとなります。
複数選択も可能なので、選択する際は国の横の+を押下し、緑色のステータスになれば選択できていることとなります。
指標の選択
次に指標の選択となります。
すべて英語となっており、多少わかりづらいですが、各指標の日本語表記を書いておきますので、参考にしてみてください。
- Gross domestic product, constant prices (National currency):現地通貨建て実質GDP額
- Gross domestic product, constant prices:GDP成長率
- Gross domestic product, current prices (National currency):現地通貨建て名目GDP額
- Gross domestic product, current prices (U.S. dollars):米ドル建て名目GDP額
- Gross domestic product per capita, constant prices (National currency):現地通貨建て1人当りGDP額
- Gross domestic product per capita, current prices (U.S. dollars):米ドル建て1人当りGDP額
- Inflation, average consumer prices (Percent change):年平均インフレ率
- Unemployment rate:失業率
- Population:人口
- General government revenue (National currency):現地通貨建て財政収入額
- General government revenue (Percent of GDP):GDP比の財政収入額(%)
- General government total expenditure (National currency):現地通貨建て財政支出額
- General government total expenditure (Percent of GDP):GDP比の財政支出額(%)
- General government net lending/borrowing (National currency):現地通貨建て財政収支額
- General government net lending/borrowing (Percent of GDP):GDP比の財政収支額(%)
- General government net debt (National currency):現地通貨建て政府純債務額
- General government net debt:GDP比の政府純債務額(%)
- General government gross debt (National currency):現地通貨建て政府総債務額
- General government gross debt (Percent of GDP):GDP比の政府総債務額(%)
- Current account balance (Percent of GDP):GDP比の経常収支額(%)
この中でもよく使う指標は名目GDP、実質GDP、インフレ率といったところでしょうか。
ちなみに、名目GDPはGDPをその時の市場価格で評価したものであり、実質GDPは名目GDPから物価変動による影響を差し引いたものとなります。
データの抽出期間を選択
そして、最後にデータの抽出期間を選択します。過去データもありますし、5年先までの予測値であれば抽出できるようになっています。
ここで、右上のPREPARE REPORTを選択すると選択したデータが画面上にアウトプットされ、EXCELでのデータの抽出もできるようになります。
留意点
前述したように、永久成長率を考える際には、対象会社所在地国のGDP成長率やインフレ率を参考にする場合もあると言いましたが、参照するGDP成長率やインフレ率が新興国、例えばインドや東南アジアのような国の場合は足元のGDP成長率やインフレ率が高い傾向にあるので、そのまま参照できるかは注意が必要です。
個人的には、このような近年成長の著しい国の場合は、素直に永久成長率=0%と保守的な前提を置くのが合理的かと思っています。
参考資料
- IMF World Economic Outlook Database (October 2022)
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