無形資産評価で採用される事業計画の条件

DD/Valuation

無形資産の評価(PPA業務)に際し、対象会社の事業計画はあらゆる場面で参照されます。

例えば、ある無形資産をインカムアプローチで評価する場合の将来FCFの算定であったり、IRRの計算であったりです。

ここで問題となるのが、どのような事業計画を使用するかということです。

事業計画には、対象会社(セルサイド)作成のもの(マネジメントケース)もあれば、買収会社(バイサイド)側で一定のストレスをかけたもの(ダウンサイドケース等)もあり、どの無形資産の評価においてどの事業計画を採用すべきか悩むことがあります。

今回は、この部分について解説していきましょう。

問題の所在

無形資産の評価で採用される事業計画ですが、単純に対象会社(セルサイド)作成の事業計画をそのまま使うのはダメなのでしょうか。

ここで、もし対象会社作成の事業計画が強気に作成されているものであり、それを無形資産の評価に採用した場合どのような問題が生じるでしょうか。

強気の事業計画の場合、将来FCFは想定(市場予想)よりも多額に発生することとなり、将来FCFの現在価値で評価される無形資産は、結果的に想定よりも多くの金額が当該無形資産に配分されることとなり、適切な無形資産の評価ということはできません。

つまり、どの事業計画を採用するかという問題は、ひいては無形資産の金額や狭義ののれんの金額にダイレクトに影響するため、重要な論点と言えるのです。

無形資産の評価では、市場参加者が想定する事業計画が採用される

その事業計画を採用するかを考える前に、まずそもそも無形資産の評価とは何なのか、その根幹の部分について考えてみましょう。

そもそも無形資産の評価とは、無形資産の公正価値を測定することと同義かと思います。

ここで、公正価値とは多義的で使用する場面によって意味合いが変わりますが、無形資産の評価においては、市場参加者が想定する価値=公正価値となります。

このように考える背景はは、PPA業務というものは財務会計上の要請を受けた手続であり、外部の投資家への情報提供目的に行われるものであるため、公正価値は市場参加者が想定する価値と考えられるのです。

そうであるならば、無形資産の評価で使用する事業計画は、市場参加者が想定する事業計画であるべきとの前提を満たすものと整理されます。

市場参加者が想定する事業計画とは

それでは、もう少し踏み込んで、市場参加者が想定する事業計画とはどのようなものか考えていきましょう。

これは上場会社であれば、外部に公表されている経営計画が該当するかと思います。

一方、非上場会社や経営計画を公表していない会社は多く存在しますので、このような会社ではどのような事業計画のことを指すかは議論になります。

実務上は、対象会社が作成している事業計画がベースとはなりますが、ここで今一度当該事業計画が市場参加者の想定に近いものかといった観点で再検証する必要があります。

例えば、実績と計画の営業利益率が大幅に乖離していないかや、業界全体の業績が落ちているのに、計画で業績が右肩上がりになっていないかなどといった検証を実施し、もし実績と計画が乖離しているのであれば調整をかける(ストレスをかける)必要があるかと思います。

また、対象会社が買収されることによって買収会社との間で生じるシナジー効果を事業計画に織り込んでいる場合は、このシナジー部分も除く(=スタンドアロンの事業計画とする)必要があります。

これは、買収会社とのシナジーは市場参加者側で想定しづらいため、公正価値に含まれるべきではないといった理論的背景があります。

この買収会社とのシナジー効果を除くという論点は、見落としがちな論点でもあるため、注意が必要です。

留意点

買収価格をサポートした事業計画をそのまま使用しない

実務でよくありがちなのが、買収価格をサポートした事業計画をそのまま無形資産の評価で使用することです。

買収価格をサポートした事業価値には、買収会社とのシナジーを織りこまれていることも少なくないため(特に入札案件では入札に勝つため、高いValuationをサポートするような事業計画を採用していることがある)、このような事業計画を使用する際は買収会社とのシナジーがどのくらい織り込まれているかを確認し、シナジー部分を除外した事業計画を採用してください。

無形評価時点で実績が計画と乖離していた場合はどうするか

PPA業務は、買収時点から1年以内に実施することが求められているため、実務的には買収時点と無形資産評価時点が時間的に乖離する場合があります。

このように時点が乖離する場合であっても基本的には、買収時点から評価時点までの実績を取込み、進行期は計画-実績を事業計画の発射台とすればよいと思います。

しかし、実績値が思いのほか好調ないしは不調であった場合に、計画値を修正するか否かで悩むケースも存在すると思います。

このような場合は、まず一度対象会社に進行期通期の着地見込みをヒアリングし、着地見込を計画値に置き換えることを検討してみてください。

着地見込みは、進行期の成り行きの業績を考慮に入れた数値ですので、計画値よりもより最新かつ確度の高い数値になっていることが多いかと思います。

一方、対象会社側でも着地見込を想定していない場合はどうするのでしょうか。

この点については、実務上もかなり悩むポイントではありますが、個人的には計画-実績を発射台として、粛々と評価していくのがいいのではないかと思います。

理由としては、計画値を調整するとなるとどのくらい調整するべきかといった論点が生じますし、必ず調整の根拠を監査法人から問われることとなります。

ここで合理的に説明できるような調整ができるのであれば問題はないですが、このようなケースでは予想外の外的要因により実績が好調or不調になっていることが多いので、おそらく合理的に説明は難しいのではないかと思います(そもそも、予測できていたのであれば買収価格の決定時に考慮しているはずです)。

なので、基本的には実績が想定外の好調or不調であったも、計画値は調整せず、計画-実績を発射台として、粛々と評価していくのがBetterかと思います。

ただ、このような場面に遭遇することはめったにないと思いますので、あまり深く考えすぎないようにしてください。

参考

  • M&A無形資産評価の実務 デロイトトーマツFAS株式会社

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