未払税金費用は運転資本かネットデットか?

DD/Valuation

流動負債に分類される未払の税金費用ですが、Valuation上、運転資本に含めるかネットデットに含めるのかで企業価値が変わってきます。

今回はこの未払の税金費用について整理していこうと思います。

運転資本とネットデットの定義

まず、そもそもの両者の定義について確認しましょう。

  • 運転資本:事業用の資産及び負債のうち、流動項目に属する項目
  • ネットデット:純有利子負債項目で、具体的には
    ネットデット=有利子負債+デットライクアイテム-キャッシュライクアイテム

と一般的に考えられています。

各種税金の性質から、税金ごとに運転資本かネットデットか区別する

上記の定義からすると、税金費用は運転資本に該当するような感じがします。

しかし、実際は各税金の性質を考え、税金ごとに運転資本かネットデットかに区別するのが正しい考え方だと思います。

例えば、経常的に発生する消費税、事業所税、固定資産税、社会保険料などは運転資本とし、法人税、住民税及び事業税(法人税等)、不動産取得税、その他の一時的な取引税に係る未払い等、年に数回しか発生しないものや、不定期で生じる税金はデットライクアイテムとして取り扱います。

ただ、上記はあくまで一例であり、対象会社の業種業態や業界慣行によって各税金に対する見方は多種多様ですので、通常は個別の案件ごとに判断することが多いかと思います。

税金費用が多額かつ多種の税金費用が発生している場合は、Valuaionのためにも財務税務DDで各税金費用がどのような性質のものであるかはチェックしておきたいところです。

実務的には、ネットデットに含めること傾向にある

さて、前述では、理論的には各種税金費用の性質から判断して、運転資本かネットデットか区別すると書きましたが、初期的なValuationをする際や簡便的に一括して税金費用を取り扱いたいとした場合はどのように考えればよいでしょうか。

この場合、経験則では全額ネットデットに含めることが多いかと思います。

その理由は、

  • 未払いの税金費用のうち多くは法人税等に係る未払なので、簡易的に全額ネットデットとする
  • ネットデット金額は事業価値から全額直接控除され、企業価値を押し下げるため、買い手のValuationにおいては、より保守的に価値を算出するためという意味合いで、ネットデットに含める(買い手目線)

ことが背景にあります。

ただ、あくまで簡便的な処理や未払の税金費用が少額の時の話なので、精緻なValuationが求められる場合等は上記税金ごとに判断する方法を採用するのがBetterかと思います。

DDとValuatorで見解のすり合わせをしておく

この論点は、割と判断が入るところであり、かつValuatorと認識が相違する可能性が出てくる部分ですので、クライアントへの報告前に、事前にValuatorと見解のすり合わせをしておいた方がよいと思います。

上でも話しましたが、運転資本に含めるか、ネットデットに含めかで企業価値が大きく動く可能性があるため、ここは慎重にValuatorとコミュニケーションを図る必要があると思います。

留意点

最後に、補足として上記以外の留意点について書いていきます。

非課税取引の多い業界はより慎重に判断する

非課税取引の多い業界(不動産や医薬)は、税金費用は大きな論点となります。

このような業界では、未収未払の消費税が多額に発生するため、運転資本かネットデットにするかは、通常よりもValuation結果に大きく影響することとなります。

そのため、いつも以上に慎重に判断すべきかと思います。

仮受仮払の消費税は純額に修正し、実態B/Sに反映させる

これは、Valuationというよりはクライアントに報告するときの報告書の体裁面での留意点になります。

通常、Valuationの基準日時点のB/Sを報告書に記載するかと思います。

その際、DDの基準日が期中の場合、仮受仮払消費税がB/Sに出てきますが、当該仮受仮払はネットしたうえで、B/Sに反映させるようにしましょう。

仮受仮払はあくまで仮数値であるので、B/Sとして表に出すときは、ネットしたほうが見栄えがいいと思います。

参考

企業価値評価の実務Q&A 株式会社プルータスコンサルティング

財務デューデリジェンスの実務 プライスウォーターハウスクーパース株式会社

euro

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